まだ現役。

広告業界で働くITエンジニアなおっさん、未だにラノベを読む。ラノベ以外も読むし、時にはゲームやアニメの話もする。

『織田信奈の野望 全国版16』読んだ

こんにちは、おっさんです。

前回の予告から一週間ですか。

cant-stop-c2.hatenablog.com

映画の方と本業で時間を取られるとはいえ、もう少し頻繁に更新していきたいな、と反省することしきり。

今回は、『織田信奈の野望 全国版16』のレビューを取り上げていこうと思います。

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さらに追い詰められる十兵衛ちゃん

前作で丹波で孤立する明智光秀十兵衛ちゃん)を救援した良晴たち。しかし、自身ではなく姉の義陽を向かわせ自分は信奈のもとに駆けつけたせいで、いよいよ心理的な亀裂が決定的に、といった状況からスタートした本巻ですが、ますます十兵衛ちゃんは追い詰められていきます。

六角承禎に坂本上を奪われ、さらに城に残していた母を再び人質にとられてしまいます。この状況を打開するため今川義元が交渉に向かうのですが、結局失敗。義元の護衛という立場で同道していた京極の姫を敵方に取り込まれてしまい、坂本城は東軍配下に収まるという最悪の事態。

史実でやらかしてる明智光秀だけに仕方ないといえば仕方ないのですが、どうにも苦難が続きます。そりゃ心も折れるよね…

剣豪将軍の帰還と「関ヶ原」への布石

さらにこのタイミングで(正確には前巻のラストですが)、先代足利将軍が明から帰国。丹後田辺城に布陣します。 先程ふれた琵琶湖畔の京極、前巻で大阪入りした毛利ほか、着々と「史実の関が原」と同様の配置に。もちろんこれには理由があって、先代足利将軍義輝公の異母弟である細川藤孝の策によるもの。

細川藤孝は三条西実枝から「古今伝授」なる文書を授かっていました。これは古今和歌集の注釈本と思われておりましたが、特殊な文字でかかれていて誰も読めないとされる文書です。細川は別ルートから神代文字についての知識を授かりこれを読み解きました。 この「古今伝授」が実は未来のことを示した(正確には作中でいう「陰世」もしくは現実世界の歴史)文書であったため、細川は明智の裏切り、織田の衰退、そして関ヶ原の合戦といった未来の出来事を把握している、というのです。

しかし史実では足利幕府も滅び、結局天下は徳川の手に渡るわけです。 異父兄を擁立する立場の細川としては史実の関が原を再現することで本来存在しなかった織田の天下と今川幕府打倒、徳川の追い落としを一気に図るため、敗死する予定の予定の西軍大将に織田信奈を祭り上げることで、「歴史の強制力」による抹殺を図ろうとした、というのがこの武将配置の理由なのでした。

武田信玄に残された時間

さて、細川の意図はともかくとして、各地の武将たちは自分の人生を生きているわけです。

例えば徳川家。帰還した本多正信が松平元康に影武者を用意し、徳川家康を名乗らせて武田(東軍)に下ったのも、細川とは別ルートの未来知識で得た徳川天下を実現するためでした。西軍のまま、松平のままでは天下はない、ということです。

そしてその武田信玄には病魔が忍び寄っていました。 本文中では特に名言をされていませんでしたが、病状からは日本住血吸虫症だと思われます。戦国時代ではまごうことなき死病。残された時間は殆どありません。本人が言っていたように、川中島上杉謙信と幾度もやりあって時間を浪費したつけが出たことと、史実であれば長篠の闘い前夜に亡くなっていたはずという「歴史の強制力」の反動です。

彼女の望みは天下ではなく、ただ戦国最強の称号のみ。 それを得るために最強の敵との決戦を望み、そしてその実現のために織田信奈を鬼にする決断をするのです。

いよいよ主要キャラにも…

織田信奈を鬼にする決断、それは岐阜城にこもる信奈の実弟、津田信澄を討ちその首を取ること。相良良晴によって回避されていた第六天魔王へと信奈を変えてしまうことでした。 信玄は未来を知りませんが、本人が兄弟を失ってきた経緯から、それが鍵である、信奈の甘さをなくす手段であると感じていたのでしょう。

もちろん、織田方も信澄を救うために岐阜へと兵を向けますが、その前に徳川が立ちはだかり…… また、武田方の内情を探るため、そして徳川翻意の真相を探るために敵地に潜入していた石川五右衛門姉妹も未帰還のまま……

織田の救援は間に合わず、岐阜城が焼け落ちるという最悪の結末を迎えました。 ここまでどうにかすべての実を拾い続けた相良良晴にとって、一気にそれらを失うはじめての経験となります。

そして

そうした岐阜の悲劇を知らないまま、明智光秀は当初の戦略にしたがい関が原の要衝である松尾山に向かいます。 が、ここでいよいよ彼女の心にある疵はが悲鳴をあげることになります。

そこに朝廷を介して細川藤孝より書が届きますが、そこに書かれていたのはたったひとつの句。

『時は今 天が下知る 五月哉』

策士細川藤孝の最後の一手は、光秀を史実で松尾山に陣取り、西軍を裏切って東軍の勝利を決定づけた“裏切りの将”小早川秀秋に見立てることで、関が原の勝利による東軍の覇権と、本能寺の裏切りによる織田の衰退を同時に見立て実現する作でした。

最後に

いやー、全国編めちゃくちゃおもしろいです。 史実の要素をうまく絡め、回避できたと思ったフラグを一箇所に見立てでもってくるとは。

古今伝授や未来記などはまあ色々無理があっていきなり感が強いガジェットですが、ともあれすべての実を拾うという良晴の思い、哲学が一気に突き崩され物語が暗転した巻になりましたね。

上には書いていませんが、ガスパールとともにある選択をしてしまうのか。そもそも没したと思わる幾人かについても、本当にそうなのか。 次が見逃せません。

次回は本作と同日に出た外伝か、もしくは精霊のお話かなぁ、と思います。引き続きよろしくお願いします。